映画、小説

辛酸  城山 三郎

〇オープニング

正造が外のドラム缶風呂に入り、宗三郎が風呂を炊くシーン。

〇読書発想

オープニング後の村を回るシーン。夜の、しかも雪のチラつく時期を風呂上がりで回る正造。村の大変な状況がつぶさに分かり、また正造のみんなへの想いが手に取るようにわかる。

→足尾鉱毒事件の谷中村強制廃村は実際にあった出来事。説明を書くよりも屋根もない村民の暮らしを生々しく描くほうが感情移入しやすく、序盤に持ってくるのは名シーンである。足尾銅山鉱毒の中毒者がいるので、どのように中毒になったか、また廃村が決まった時期などをクローズアップすると全体像がより見えたかもしれない。

訴訟の顛末については実際の土地の買収に関してだが、価格交渉の綱引きが繰り広げられる。

→裁判の全体像がちょっと分かりづらかった。谷中村の村民は土地を高く売りたいのだろうが、金額の目標や目標達成後の目論見、その他の論点も加えてもよいのではないだろうか。物語がまさに辛酸、いや辛酸続きなので、なにが希望なのかが今一つつかめない。

テーマは愛する人を守りたいと思われる。また、正造と宗三郎の父子のようなやりとりがあり、実の親子のような感情の発露があって読者を飽きさせない。

→テーマから鑑み、宗三郎のラブストーリーをいれても良いような気がする。ただ、恐怖、痛み、危険を免れたいといった欲求だとするとラブストーリーは不要。

物語は一貫して辛酸を舐めているストーリーが続く。県の強硬な態度、村民の奪われていく健康、弁護士の離反、正造の死などなど。また夏祭りのシーンで義市が彼女としけこんでいるシーンがあって、宗三郎が邪念を振り払っている場面があり、暗さを一層に際立たせた。

→YouTubeのライン工のプロットに近いか。人の不幸や苦境はつい見てしまう。人間の心理を狙って、飽きずに読ませることを狙ったのか。主役の正造が死んで、宗三郎が主人公になったとき、風前の灯火感を読者は感じるのではないだろうか。これは、かえって目が離せない展開になっている気がする。

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