〇オープニング
死亡労働災害が発生して、数人のゼネコン、関係者が労基署前に集まっているシーンからスタート。
ミニユンボでの事故が原因となっている。
〇ストーリー
メインのストーリーはミニユンボの遮蔽版がないのが原因で死亡事故が起こる、その事故の労基署の対応。
四次受けの会社など末端の人は行政処分となるが、ゼネコンに対する処分は証拠がほぼ隠滅されているため難しい。
労基署内で丹念に捜査を進め、事故の真相をつかんでいく。
また、サブタイトル的な話もあり、労災隠し、マスコミへの投げ込みで警告書の話がある。
〇ストーリーの考察
正直、あまり面白くなかった。
というより、話が専門的過ぎて商業出版ではなく自費出版ではないか?
エンタメ要素が不足しており、その他にも色々問題がある。
下記に記す。
・漢字が多すぎ。開いた文字がほとんどなく、漢字にできる箇所は全て漢字にしている。非常に読みにくい。
・物語は不正を暴こうというので良いのだが、平坦な展開が長い。実務はそうなのだろうが、労基署内の会議が何度も行われる。
・特定機械の検査証、といった単語を誰が理解するのだろう。一般の人は何を言っているのか分からないのでは?
・アマゾンレビューにもあったが、相良署長が美化されすぎ。自分に置き換えているのか?
・サブコンテンツが中途半端。話の展開が乏しく、おまけ的に付随している様子。
ほかにもいろいろあるが、この辺りにしておこう。
この本を商業ベースに乗せるには、最低でも下記が必要だろう。
◇物語のメリハリをつける。
余計なサブコンテンツは外して、ミニユンボ事件のみに集中。
黒幕のゼネコンを追い詰めるとこまで行けばよいのではないか?
司法捜査や検事が出てくるが、裁判系は読者の受けがよく、ドラマチックな演出がやりやすいだろう。
◇人気カテゴリを軸にする
正直、この話は売れ線のカテゴリではない。
たとえば、推理、恋愛、青春、ショートショート、時代系など売れ線要素とは離れた物語展開となっている。
その他のカテゴリが悪い訳ではないが、もう少し人気を意識したらどうだろう。
具体的には、推理物にして真犯人は国会議員だったなど、水戸黄門のような定型的な展開、ラスボスあるあるの方が盛り上がるのではないか?
あるいは、マルサの女、トッカンのような、あの手この手で税を逃れる人の悲喜こもごもの人間ドラマ系も良いだろう。
労災隠し、行政指導を受けないように現場偽装など、建設業の脂っこい中小企業社長などはドラマの登場人物として不足ないのではないか。
その線で行くと、ブラック企業で長時間残業を止めない、残業代未払いあたりもドラマ化しやすいと思う。
むしろ、そちらの方が一般的にはなじみがあるので、読者層が広がる気がする。
◇女性を入れたほうが良い
実際の現場はそうなのだろうが、登場人物が男ばかりで華が無い。
とくに建設現場が主体なのでしょうがないかもしれないが、もうすこし遊び要素を入れた方がよいだろう。
たとえば、メインの監督官と見習い女性監督官のコンビなどは定番で使い勝手が良さそう。
黒幕のゼネコン社長が女性で、苦労して立ち上げた会社、女性社長の幼少期からの過去ストーリーも展開が期待できる。
または、女性国会議員もワンチャンあるのでは?
半沢直樹で出てきた、女性国会議員との師匠役の美濃部の話があったが、そのあたりのエッセンスは活用の妙味もあるだろう。
◇キャラを立てよう
相良署長以外はだいたい同じキャラクターに見える。
登場の下りは大柄とか説明があるが、セリフや行動に関してとくに特徴が無い。
相良署長、以下労基署職員といった感じである。
さきほど話と重複するが、見習いの女性監督官、踊る大捜査線のわくさん系、相良署長の奥さんとか、名脇役キャラがいると随分違うのではないか。
〇まとめ
おそらく自費出版と思うのでしょうがないが、定価に見合うエンタメ性が欲しかった。
労基署関連は根強いファンがつきそうなので、労働小説は今後も期待したい。