映画、小説

ひよっこ社労士のヒナコ 水生大海 

〇概要

新米社労士雛子の奮闘を描く短編集。

パワハラ、育休、派遣社員、裁量労働制やみなし事業場外労働など現代の世相を反映した労働問題を描いている。

やまだ社労士事務所の新米社労士で、山田所長、奥さんで税理士の素子さん、丹羽さんが事務所のメンバー。

女性目線で丁寧に描かれていて、出産によるキャリアの停滞や、まだまだ男性社会である企業での立ちまわり方などがリアル。

労働問題自体は若干大きく問題化する傾向があるが、それは商業出版ゆえの流れだろう。

〇オープニング

退職手続きのやり取り。

社労士事務所側は雛子、相手はクライアントの人事担当。

最後に「社長にも説明してもらえますか?」とちょっと無責任な雰囲気で本編への導入。

〇読書発想

1話目の五度目の春のヒヨコは推理物。

問題社員の退職手続きで、実は彼氏と退職前からレストランの開業を準備していた。

肝は会社の出勤簿不正、総務担当の女性のサイン、だれかに言わせる手法。

総務担当の女性が友人的と思っていたのに、会社を敵に回したくないがために、雛子を利用していたという展開。

黒幕がその若い女性(社内恋愛中)というのは意外な展開で、たしかに推理物が完成している。

不正の結末は「課長はあっさり白状した」→ 改ざんサインにつなげている。

おそらくだが、プロットを同時進行にすることによって、バランスを取っているのでは?

➀出勤簿改ざん

②退職手続き難航

退職手続きがベースにあるので、長時間労働などを絡ませる展開もありかも知れない。

扱う労働問題は全体的にクリーンと言っては何だが、大企業で起きるようなものが多い。

もうすこし中小企業よりでも良いかもしれない。

たとえば、保険未加入、タイムカード無い、長時間労働、残業代未払いなど。

これらは読者が、見たらすぐに「悪」というのが分かるので勧善懲悪が向いているかも知れないが。

実際の労働現場では助成金を説明して、要件通りにやってもらう。

いわゆる「脅し」も事例が少ない。

著者は元々企業の総務的な仕事をしていたらしい。

見方を変えれば大企業的な立ち回りが得意で、様々な中小企業や零細企業は距離があるのかもしれない。

いわゆる勧善懲悪は公表制度、罰金、労基署さかのぼり、会計検査院さかのぼり支払いなどか。

派手目の話であれば、勧善懲悪は下記はどうか。

・労働組合の潜入捜査

・会計検査院、社会保険2年さかのぼりで倒産

・タイムカード家庭内不和で早朝出勤、労基署タレコミからの弁護士請求2年分

・完全リモートワークで深夜も野放図 雇用調整助成金

・休憩調整 残業代を発生させないように

登場人物は雛子が主役で山田所長、素子さん、丹羽さんはメンター的な役割。

別パターンで国税特別徴収官のような男性上司と新米女性、あるいは武士道シックスティーンのような女性二人の展開もありだろう。

株式会社マジルミエのようなメンバー構成も参考になるかもしれない。

〇法律分析

・五度目の春のヒヨコ

自営業の失業手当

体調不良、事後の有給申請

残業時間偽装

船渡さん黒幕

・綿菓子とネクタイ

バイトテロからの解雇

時給アップ口約束

休憩時間アバウト

バイトの社会保険加入

飲食チェーン専務ブラック

・カナリアは唄う

育児介護休業法、IT企業スタッフで妊娠、就業規則作成、男女雇用機会均等法、マタハラ

炭鉱のカナリアをそのスタッフに見立てた構成

スタッフ当真さんの育休の扱いで、妊娠したスタッフの今後の扱いが分かる 社長の一挙主一投足を見ている

・飾りより、灯りより

派遣労働者、ヒナコの派遣時代回想、年末調整、派遣元と派遣先の立ち位置

扶養控除申告書、正社員の社内不倫、派遣切り

・空に星はなく

製菓メーカー、女性管理職の森田課長、通勤災害、精神障害の労災認定、うつ病、ストレスチェック

営業の田辺次長のパワハラ、ザ昭和の上司、産業医、残業削減対策

ストーカーまがい、フォローメールを打つ、駅員を警官と間違えて逃げて転び

言い訳が尾ひれがついて大ごとに脚立から落ちて労災、私傷病報告

・握りたい手は

アパレル会社、裁量労働制のデザイナー業務営業部の事業場外労働

残業代削減、営業部とデザイン課の確執、デザイン課のストライキ

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