映画、小説

長谷川平蔵 人足寄場 死守 千野隆司

寛政の時代、無宿人や軽犯罪人で刑を全うした人々を収容する施設を、火付盗賊改め方の長谷川平蔵が設立した。

北町奉行与力の阿比留平之助が、幕府の人足寄場を廃止する意向から施設を死守する物語である。

〇面白さの戦略

江戸時代を背景としており、一定のファン層がいると考えられる。

時代劇は映画やドラマでも日本人になじみがあり、年配の方からおそらく若い方もファン層がいるだろう。

物語りの内容は後述するが、おそらく面白さのエッセンスは推理物に寄せたのではないだろうか?

幕府からの「人足寄場を廃止」という意向が物語の大半を占める。

その話が出るたびに、おそらく読者は「誰が黒幕なんだろう?」と考え続ける筈である。

磐城平藩の殿様や、老中松平定信、そして奈良屋をはじめとする町年寄、陸奥屋などの請け人など、誰が何の目的で人足寄場を廃止に追い込んでいるか、8割くらい読まないと分からない。

したがって、人足寄場の廃止をもくろむ真犯人の暗躍がメインプロット、平之助の親族的人間関係や奉行川村、勘定方扇橋などのやり取りがサブプロットだろう。

まとめると、推理物+江戸の勧善懲悪が本作品の骨組みであり、軽快な読後感、次も読みたいといった感想を喚起している。

〇物語りについて

幕府という組織の中で、カネは出さない、口は出すといった上層部の姿勢に葛藤する平之助の心情は、共感できるものが多々ある。

また、戸佐造や又次が捕まりそうで捕まらない展開は、読者をハラハラとさせ飽きさせない。

そして、磐城平藩と陸奥屋の思惑、佐貫屋の襲撃計画が同時進行していて物語のテンポが良く、まるで映画を見ているような感がある。

最後の佐貫屋襲撃に対する平之助の真剣勝負、武士対武士の殺陣の緊張感、最後の明乃の小太刀とまるで水戸黄門のようなクライマックス。

最後に奈良屋当主に「900両の働きをしなければなりませんね」といったオチも読後感を心地よいものにしている。

朝次の男気、お久邇の健気さ、奉行川村の上しか見ていない軽薄さなど、江戸の人情があふれる展開は、時代物ファンでなくとも引き込まれるのは間違いないだろう。

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